MKU's View

経営戦略論・組織論を研究しているMKUのブログ。 書評やウェブ上の気になった記事などを載せていきたい。 私自身の思考トレーニングの側面もあるので、まとまりの良さよりも、ちょっとした「引っかかり」を中心に投稿を行っていきたいと思っている。


Thursday, August 24, 2006

スズキ自動車の動きについて

スズキ自動車は、軽自動車を減産する模様だ。
【池原照雄の単眼複眼】スズキ減産で軽市場に一大転機 | Response.

軽自動車は、近年の原油価格の上昇に伴って、順調に販売が伸びている(日本経済新聞記事より「軽自動車普及率、100世帯当たり46.8台・首位鳥取94.1台」)。
一方、スズキ自動車は全世界で300万台の生産体制を構築するべく、新工場の建設を始めている(フジサンケイビジネスアイより「スズキ、静岡に小型車新工場 年24万台生産、600億円投資へ」)が、これは小型車の生産拠点となる模様だ。

つまり、軽自動車市場が伸びているものの、スズキ自体は軽自動車市場におけるシェアトップの地位に固執することなく、収益を確保できる小型車市場により注力するものと見える。

8月24日日本経済新聞朝刊記事「スズキどこまで強いか(上)」によると、スズキ自動車は既に販売台数の7割が小型車であり、軽自動車は3割にすぎない。エンジン排気量660CC以下の軽自動車という規格が日本独自のものだということを考えれば、小型車にシフトするのは、スズキがよりグローバルな市場を事業展開の場として選んでいることを意味している。
特に、冒頭リンク記事にあるように、軽自動車販売は年々加速しており、販売数量を増やすための消耗戦が続いている様子である。スズキはそうした無意味なシェア争いから身を退き、むしろ、自社の小型化技術を中心に収益を確実に確保できる小型車に軸足を移すということであろう。また、軽自動車があまり売れすぎると、現在の税制面での優遇措置の見直しの議論が浮上する危険性もあり、そうなれば軽自動車への依存は命取りになりかねない。
そのため、スズキ自動車はここ数年、軽自動車から小型車へと事業の中心をシフトさせてきていることが、「スズキどこまで強いか」の記事中のグラフでは明確に見て取れる。シェアトップの企業は、なかなかこうした戦略転換は図れないものだと思うのだが、極めて妥当な判断だと言える。

Wednesday, August 23, 2006

ユニクロの新プロジェクト

ユニクロが、新たに若手デザイナーとの共同プロジェクトとして、「デザイナーズインビテーションプロジェクト」を立ち上げた。

デザイナーズ インビテーションプロジェクト - ユニクロオンラインストア[store.uniqlo.com]

これは、同サイトによると「パリや日本で活躍する新進気鋭の若手デザイナー達とのプロジェクト」とのこと。また、8月23日付け日経新聞朝刊によると、ユニクロと同じ生地を使うこと以外は自由にデザインをしてもらい、その結果、今までのユニクロでは考えられないようなデザイン(例えば、フリース素材のコートなど)が出来たとのことだ。
アパレルメーカーにとってはデザインは極めて重要なポイントになる。ユニクロの今までの戦略を考えると若干その整合性には疑問が残るが、敢えてファッション性を磨き上げるために、外部のデザイナーと連携するという取り組みは、デザイン能力を磨く上で意義があるだろう。実際、同記事内にも「従来のユニクロでは考えつかないアイデアを取り入れた」とユニクロ関係者は述べている。
若手のデザイナーにとっても、自らのデザインした商品が市場に出回るという点で大きなメリットがある。消費者としても、ファッション性の高い衣料が、ユニクロの安い価格で手に入れることが出来るという点でもメリットがある。こうしてみると、3者ともメリットがある形になっている。

だが、果たしてこれが本当に成果に結びつくかどうかが問題である。ユニクロの商品であれば、多くの人が手に入れることが出来るため、「個性的」でなくなる可能性は高い。また、デザインに特徴があればあるほど、ユニクロを着ていることが分かる結果になるため、それが購入をためらわせる結果につながる可能性もある。所謂、「ユニバレ」であり、ユニクロというブランドの価値自体を高める取り組みも一方で必要なのではないだろうか。
なお、TrendStyleという形でユニクロはファッション性に優れた商品の導入を行っているが、これはオンラインショップと一部店舗のみでの取り扱いとなっている。だが、今回のプロジェクトに関しては、そういった販売網の制限は特に見受けられない。
果たしてどのようにユニクロが今回の取り組みを成功へと導いていけるのか、興味をもっている。

Web2.0についてのWeb2.0メディアを用いた情報から

先日の内容で、Web2.0と楽天がかけ離れているのではないか、ということを書いたが、Web2.0がいかなるものであるか、ということについて、もう一度ちゃんと理解しようと思い、ウィキペディアで検索をかけた。結果はこれだ。なるほど、情報が確かに充実している。
この中で1つ分かった面白いことは、Web2.0という言葉自体は、「O'ReillyとMediaLive Internationalによるブレ インストーミングから生まれた」(Cnet日本語版サイト記事「Web2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル」より)ということである。

同記事によると、Web2.0の重要な特徴は、データベースに蓄積される情報、すなわち、利用者が増え、利用者の提供する情報が増えることによって、付加価値が増大するシステムにある。
同論文の中では、Web2.0企業のコア・コンピタンスとは以下の7つの項目であると述べている。
  • パッケージソフトウェアではなく、費用効率が高く、拡張性のあるサービスを提供する。
  • 独自性があり、同じものを作ることが難しいデータソースをコントロールする。このデータソースは利用者が増えるほど、充実していくものでなければならない。
  • ユーザーを信頼し、共同開発者として扱う。
  • 集合知を利用する。
  • カスタマーセルフサービスを通して、ロングテールを取り込む。
  • 単一デバイスの枠を超えたソフトウェアを提供する。
  • 軽量なユーザーインターフェース、軽量な開発モデル、そして軽量なビジネスモデルを採用する。
(上記項目 http://japan.cnet.com/column/web20/story/0,2000055933,20090424-6,00.htmより引用 2006年8月22日アクセス可能)

これらの内容を考えてみると、あながち先日書いた楽天に関する内容で示したWeb2.0の自分なりの整理も大はずれではなかったかなあとは思う。ただ、重要な点が抜け落ちていた。それは、ロングテール消費を取り込む、という点である。
アマゾンはこの点についてはその代表格のようなものだからいう必要はないが、楽天はどうなのだろうか。恐らく、個々の店舗ではそういう状況はあるように思えるが、それを良しと考えるか、それとも良くないと考えるか、これは売れ筋情報を中心としたPOSシステムの発想を楽天がどのくらい持っているかどうかという点とも関係があるかも知れない。売り場面積の制約がないが故に可能な流通形態がロングテール消費を生み出しているわけだが、楽天はどうなのだろうか。

こう書くと、楽天に対して批判的なようにも見えるが、必ずしもそう言うわけでもない。
冷静になって考えれば、別に1.0でも2.0でも、どっちの形態であっても、付加価値をどれだけ多く生み出せるのかということこそが重要だということに変わりはない。楽天は現状では、Web2.0的付加価値はほとんど無い。だが、楽天は各店舗に対し、担当者がコンサルティングを行うという形で見事にビジネスとして成功している。ノウハウの蓄積も相当なものがあるだろうし、実力主義が優秀な人材を引きつけていることも間違いない。
ただし、もし今後、日本でもWeb2.0に基づく新たなビジネスモデルが生まれるとしたら、こうした脅威はいかなる姿を持っているのか、興味のあるところである。Web2.0の様々なモデルを見ていると、どうも優秀な人材は本当に一握りでよく、それが壮大なデータベースシステムの種を築き上げ、後はそれをインターネットが発展させていく、という形をとっているように思える。
どちらのシステムが果たして本当に有効なシステムなのか、ある意味で、人間対データベースの戦いという、極めて興味深い戦いがこれからの数年間展開されるのかも知れない。

Tuesday, August 22, 2006

エプソンのプリンター事業戦略

インクジェットプリンタの市場では、エプソンとキャノンがしのぎを削っているが、日経産業新聞の8月22日の記事によると、エプソンのプリンター事業は、ビジネス・店舗向けを強化するとのこと(日経産業新聞「エプソンのプリンター事業採算重視で高級シフト」)。

同記事によると、ビジネス向けプリンターの主な対象は二つで、高級写真分野と店舗用インクジェットプリンターである。前者はカメラマンを中心としており、後者はコンビニなどでクーポン等の販促品を印刷することを目指しているとのこと。また、店舗用は個人向けのプリンターよりも使用頻度が高く、消耗品のリターンが確実に見込めることがメリットであると述べている。一方、キャノンなどの競合他社が手がける製品とは異なり、より小規模な店舗や事業所を対象とした製品を展開することを狙っていることも述べられている。

少し前の記事になるが、BCNランキングによると、キャノンがプリンタ市場でエプソンの追い上げを見せている。現在のランキング等を見てみると、キャノンは個人向け市場では逆転をしたものと思われる。だが、これはもしかするとエプソンの巧みな戦略が背後で働いていたのかもしれない。
というのは、プリンタ市場には、2004年からデルも参入している。現時点ではまだあまり成功しているとは思えないが、本格的にデルが参入してくれば、旧来のビジネスモデルを覆すような低価格戦略をとってくることも考えられ、収益の悪化が予想される。特に、デルは旧来のプリンタ事業のメインであったサプライによる大きな収益に目をつけていると言われており、安いインクの提供などにより、プリンタ市場の収益性が低下する可能性は否定できない。なにしろ、デルは全世界で3日分の在庫しか持たない、超効率オペレーションの企業であり、彼らの低コスト戦略によって多くのPCメーカーが駆逐されていった。

プリンタ事業にデルが参入できるのは、個人向けプリンタ市場がより汎用品に近い市場であるためと考えられる。逆に言えば、仮に汎用品が市場で通用しなければ、デルのビジネスモデルは成り立たない。エプソンのカラリオシリーズで昨年ヒットしたのは、画像を自動的に補正してくれる機能を搭載したモデルだったが、こうした差別化された製品でない限り、基本的にユーザーの求める者は価格である。こういった差別化の余地が限られてくれば、低いオペレーションコストによる低価格戦略によって、ますますデルには有利になるだろう。また、徐々にユーザーも分かりつつあるのは、購入時の価格だけでなくインクなどのサプライの価格も重要であると言う点で、これも今後の市場の展開に影を落としているのかもしれない。

そう考えると、汎用品ではなくより顧客との関係の中で細かな改良、作り込みの必要な領域へとエプソンが事業の軸足をシフトさせたのだとしたら、これはなかなか賢明な戦略であろう。今後個人向けプリンタ市場のシェア推移に注目していきたい。

Monday, August 21, 2006

楽天のWeb2.0化?

「楽天2.0」はユーザー発信型、三木谷社長がWeb 2.0戦略を説明 - @IT
同記事によれば、楽天はユーザー発信型コンテンツを充実させていく方針とのこと。Web2.0は今流行の言葉の一つであるが、果たして本当にそう考えているのだろうか?少々疑問に感じる。

Web2.0とは何か、ということを定義するのは少々難しい。私の理解が間違っているかもしれないが、これはインターネット上に無尽蔵に広がっている情報に対し、独自の整理の仕方を提供することによって、有意な情報へと変換するサービスのことではないかと考えられる。
Web2.0の例として考えられるものは、インターネット百科事典のウィキペディアがある。これは誰でもが情報を更新することができるボランタリーな百科事典である。非常に情報量が豊富で、私も気軽に使える便利なサイトだ。インターネット上に広がる情報を集約するポイントとして機能しているように見える。
また、梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書)で一躍有名になったGoogleのサービスは、インターネット上の無尽蔵の情報を独自の検索技術をベースにしてどんどん整理し、その整理することから収益モデルを獲得している。Googleの代表的なサービスにAdSenseという広告表示サービスがあるが、これは旧来のマス広告では広告を打つことができなかったような小規模な広告主から細かく広告を獲得し、その広告を登録している様々なウェブサイトに対し、独自の情報検索ロボットによるマッチングを図り配信するサービスである。
また、インターネット書店のアマゾンでは、書籍その他の商品データベースを構築し、それら商品に対する独自の口コミ情報登録システムを構築し、インターネット上で発生する情報の整理による付加価値の構築に成功している。

では楽天はどうかというと、現状では全くウェブ2.0ではないと思われる。というのは、確かに楽天のお店には商品に対する書き込みを見ることが出来るし、その書き込みを強引に合算すれば国内で最大の書き込みなのだろう。だが、現実的に考えて、その恩恵をどれだけユーザーは得ているのだろうか?
なぜ恩恵がないのか、ということを考えると結構理由は簡単である。
現状では、書き込み情報はあくまでも楽天市場に登録している店舗の商品単位で書き込みがあるだけである。その結果、全体から見て検索性がきわめて低い。この検索性の低さというのは実は重大な問題で、書き込みは商品に付属しているだけで、コンテンツとしての機能はあまりないように見える。現状は、ただ書き込みが乱雑に散らばっているだけなのである。確かに、個々のお店でそういった書き込みが見られるのは購入者にとってメリットがある。しかし、それは個々のお店にとってのメリットが大きいだけで、楽天としてどれだけ付加価値につながっているのか、疑問が残る。
むしろ、楽天市場で私が便利に使う機能と言えば、商品検索を楽天市場のトップページで行い、一番安いところで購入する、というものである。もし仮に、楽天市場で扱われている商品を楽天が独自にデータベース化し、そのデータベースに対してコメントがつくような形に変わると、これは検索性が著しく向上するように思える。そうなれば、インターネット通販の情報の集約ポイントとして有効に機能するようになってくる。まさにインターネット上でどんどんと生み出される情報を楽天が握ることになるのである。
今後Web2.0化を図るというが、現状はそれとはほど遠いということを認識しているのかどうか、少々気になるところではある。