MKU's View

経営戦略論・組織論を研究しているMKUのブログ。 書評やウェブ上の気になった記事などを載せていきたい。 私自身の思考トレーニングの側面もあるので、まとまりの良さよりも、ちょっとした「引っかかり」を中心に投稿を行っていきたいと思っている。


Saturday, August 12, 2006

新規参入4銀行、それぞれの戦略

今日の日経新聞朝刊に、新規参入の4つの銀行(セブン銀行、ソニー銀行、イーバンク銀行、ジャパンネット銀行)の第一四半期業績について、セブン、ソニーは好調の一方で、イーバンク、ジャパンネットの2行は損失が生じていることが報じられた。同記事リンクはこちら(「新規参入行、業績は明暗・4-6月」NIKKEI NET:経済 ニュース)。

この4行の戦略を比較すると面白いことが分かる。
業績好調だったセブン銀行の主な収入源は、同行ATMの提携行・その他金融機関による利用であることが分かる。第一四半期の経常収益(18,093百万円)のうち、ATM利用手数料収入は、17,538百万円であり、経常収益の96%強を占めていることが分かる。つまり、セブン銀行はATMサービスが主軸の戦略であることが分かる。
一方、ソニー銀行を調べてみると、彼等は独自のATMを有していない。これはイーバンク、ジャパンネットも同様である。では、ソニー銀行と他2行との違いはどこにあるのかというと、ソニー銀行は旧来の銀行と同様の業務(預金、融資、投資信託の販売等)を重視しているのに対し、他2行は決済手数料を主な収入源にしている点にある。特にジャパンネットはヤフーとの提携(2006年6月29日)からも、オークション取引やネットショッピングの手数料収入を獲得することを目指しているように見える。
勿論、今回の四半期の業績が悪かっただけでは判断はしにくいが、3行については、この戦略の違いが収益を分けているのかもしれない。
つまり、ソニー銀行にとっての直接的競合は、旧来の店舗を持っている銀行(以後、店舗銀行と呼ぼう)になるだろう。ソニー銀行は、ネット専業とすることによりオペレーションのコストを大幅に下げる一方で、個人向けサービスに特化し、顧客の利便性を図る(例えばユニークなネットバンキングサービス「MoneyKit」の提供)っている。実際預金金利などは魅力的である。これに加えて、収益性の高い住宅ローンなどの融資を積極的に行う。個人向けに特化している銀行ならではのサービスである。
つまり、店舗銀行に対しては、基本はコストリーダーシップ戦略(同じサービスを低コストで提供する戦略-よく間違えられるが、低価格戦略のことではない)を基礎としながら、そこから商品やサービスの魅力を高める商品・サービスの差別化を行っていると見ることが出来るだろう。
また、ソニー銀行は当初、特徴のない銀行として見られていた銀行だが、旧来のメガバンクであっても、店舗をなくすことができないことを考えれば、有効な戦略であると言えるかもしれない。
一方、イーバンクやジャパンネットは、これとは全く異なり、純粋に決済のための銀行である。しかし、少し疑問に感じるのは、みずほ銀行や三井住友銀行といった店舗銀行がネットバンキングに力を入れ、決済手数料を下げた場合には、彼等は果たしてどこで差別化を図っていけるのだろうか?銀行は信用が基本的価値だが、店舗銀行と比べると信用の面では大幅に見劣りするのは否めない。また、イーバンクとジャパンネットの2行はほぼ同じ戦略に見えるが、差別化のポイントはどこなのか、今ひとつ見えてこない。今後、どのような戦略で店舗銀行やソニー銀行、はたまた同じポジション同士の競争を行っていくのかは見物である。

ところで、セブン銀行だが、本当にこれは優れた戦略であると言える。一番の特徴は、セブン銀行のお客は、銀行だということだ。セブンイレブンやイトーヨーカドーの店舗スペースを利用し、ATMサービスを他の銀行に売る、という新しいビジネスモデルを考え出したのである。
店舗銀行がバブル崩壊以降収益モデルが変化している流れから、コスト削減の必要性に迫られ、支店網を削減せざるを得ない現状で、ATM運営コストは彼等にとって大きな問題になっている。そこに目をつけて、ATMサービスのアウトソーサーとして独自の地位を確立したのがセブン銀行である。
これは、セブンアンドアイホールディングスの経営資源を有効に活用した形での多角化に成功した事例と言える。
収益を見事に上げられている背景には、ポジショニングのうまさだけでなくコスト削減努力もある。店舗がないことは当たり前としても、特徴的なのは、ATMの数が増えれば、メンテナンスサービスのコストを大幅に下げることができるという点だ。ATMの密集度が高くなることと、ATMのメンテナンスノウハウが蓄積されるからである。その他、システムも洗練されたシステムを利用し、大阪と横浜の二つで処理を行っている。
また、類似サービスと言えるファミリーマート等に設置されている「e-net」と比較すると、サービス開始当初から「アイワイバンク銀行」として銀行免許を取得したことによって、独自にATM設置が出来るという点である。(快走するコンビニATM、ヨーカ堂系が台数で大手銀抜き日本一を参照のこと。)

今回の業績の明暗から考えてみると、戦略の独自性が明暗を分けているように見える。最も特徴的な戦略を採っているのは明らかにセブン銀行である。もう少し調べてケースにまとめてみようと思う。

Friday, August 11, 2006

AOKIの再生術

王子製紙による北越製紙へのTOBは難航しているが、AOKIによるフタタへのTOBは、場合によってはうまくいくかも知れないような兆候が見られている。
本日の日経新聞朝刊の記事「フタタへの経営統合案、不採算店、業態転換へ」(NIKKEI NET:企業 ニュース)によると、AOKIは不採算店舗に関しては、喫茶店、結婚式場など同社が運営している他の業態への業態転換を行う用意があることを示している。
つまり、フタタが現状で抱えている問題(不採算店舗)に対する解決策をAOKIが有しており、さらに現行の店舗の収益性についても、スケールメリットを利用した調達コストの節減が見込めるという点で解決策を示している。
つまり、フタタ経営陣がAOKIのTOB提案に対して前向きに検討しようとしている動きがあるのは、フタタの抱えている問題に対する解決策を提供する能力をAOKIが有しているからであり、一方的にAOKIにメリットがあるだけではないことが明らかだからではないだろうか。トリイやゼビオを買収したAOKIが同様の再生術を用いていたとも考えられ、同業他社の買収に対する1つの有効な方法を示していると考えられるだろう。
ところで、北越製紙のウェブサイトに掲載された王子製紙の提案に対する反論をまとめた資料「北越製紙の自主経営と株主価値向上について-王子製紙による経営統合案についての所見-」(PDF資料:http://www.hokuetsu-paper.co.jp/pdf/OSIRASE/060809_press_release01.pdf)を見ると、北越製紙は王子製紙の経営統合への反論として7つもの問題点を指摘している。これを(ざっとだが)見てみると、王子製紙の事業構造についての問題点を除けば、北越製紙の主張点はこのようなところだろうか。
すなわち、「王子製紙が中核向上である新潟工場を手に入れたいがために買収を仕掛けてきている。まずそのスタンスは、我々の事業展開のやり方と異なる覇権主義で、受け入れがたい。それ以外の事業に関しても事業統合上メリットがあるとは言えない。」という内容に見られる。

AOKIとフタタとの比較を考えてみると、フタタは事業上の問題点に対して(コナカはあまり有効な提案をしてくれなかったのに)AOKIは買収というやり方ではあるものの、有効な解決策を示してきてくれている、と捉えているようにみるのに対し、北越製紙側は別に困っていることはないのに、いきなり向上欲しさに買収を仕掛けられた、と映っているように見える。同じ時期のTOB発表であったが、決定的な違いがあることが見て取れる。

とかくTOBについては、感情的な側面が着目されがちな日本のメディア報道であるが、AOKIのフタタへのTOBの提案内容は理に適った提案であることをもっと評価しても良いはずだ。
特に今回のAOKIの買収提案は、買収対象企業の事業運営上の問題点に対する解決策を明確に示している点で、今後のTOBの是非を見る上でも興味深い内容となっている。これからも注目し続けたい内容である。

Thursday, August 10, 2006

Blog改造中

新しく始めた当ブログ"MKU's View"だが、徐々に改造を加えていっている。
使ってみて分かったが、Bloggerのサービスはシンプルなテンプレートの提供だけで、それ以外の様々なモジュールは自分で付け加える、という形態のようである。
そのため、否応なくHTMLのソースコードに向き合うことになるので、初心者向きではない。とはいえ、初心者の私でもそれでもなんとかなっている

さて、まず始めに行った改造は、自サーバーへの移転だ。
このブログは、GoogleのBloggerというサービスを利用しており、Bloggerのツールで作成したブログを自分のサーバースペースに転送する形をとっている。最初はBloggerのスペースにおいていたが、サイトの統合性を考えて、自サーバーに設置することにした。

次に行った改造は、Google AdSenseの設置である。AdSenseで広告収入を得たい、というよりも、AdSenseに出てくる広告が、どれだけ本文の内容を反映しているのか、Googleのロボットの性能を見てみたいという方が大きかったかも知れない。最初は、サイト上部と右下に設置したが、上部はAmazonのアソシエイトに変更した。流行りのビジネス書が一目で分かるというメリットもあると思う。

3番目に行った改造は、カレンダーの設置である。
以前のライブドアのブログサービスでは、カレンダーが最初から設置されていた。
しかし、Bloggerではカレンダーは設置されていない。
そのため、ネットで検索したらヒッとしたクリボウさんのサイトを参照しながら、カレンダーの設置を行った。本来ならば、こういう内容をクリボウさんのサイトにトラックバックすべきなのだろうか。なんか遠慮してしまうあたり、まだ私も"Blogger"ではないということだろうか。

4番目の改造は、トラックバックの設置だ。
Bloggerではコメントは書き込めてもトラックバックはデフォルトの状態では付いていない。
そこで、Haloscanというサービスを利用して、設置することに成功した。

目下のところの課題は、どうやって3列表示にするか、という点である。ご存じの方がいらしたら、是非お教えいただきたい。
また、写真を背景に設定したりしてみたいとも思っている。この方法もまだ分かっていない。
加えて、記事をカテゴリ分けをして整理しておきたいとも思っている。さらには、Blog内の記事検索機能を設置したいとも考えている。

最終的なデザインとしては、3列表示で、左側にカレンダーとAdSenseの縦長バナー、右側にエントリーとカテゴリ、そして、Blog内検索、スペース的に余裕があれば何らかのRSSリーダーの設置、という形にしていきたいと思っている。
まだまだ先は長いが、徐々に充実させていくので、おつきあいいただければと思う。

来年度からのシチズンの持株会社化に関して

少し前(7月26日) になるが、シチズンが持株会社化を来年度から行うことを発表した。
(発表資料のPDF http://www.citizen.co.jp/release/06/pdf/060726ka.pdf
詳細はまだ明らかにはなっていないが、同日の日経新聞朝刊記事「シチズン「脱時計」鮮明に」によると、記事のタイトル通り、今後大幅な成長が見込めない時計を中心とした事業構成からの脱却が狙いであるとのことだ。

シチズンのウェブサイトで有価証券報告書と事業報告書を見る限り、シチズンの事業は5分野(時計、電子デバイス、産業用機械、電子機器製品、その他)で、そのうち時計が37.2%、電子デバイスが33.1%を占めている。つまり、事業全体の70%は時計と電子デバイス事業だということになる。逆に言えば、時計以外の事業が70%弱まで広がっているという言い方も出来る。一般消費者である我々にとってはシチズン=時計というイメージだろうから、そう考えると多角化が進行していると見ることも可能だろう。
電子デバイス事業は、主に携帯電話に使われるようなオプトデバイスや、LED、DVDのピックアップが中心らしい。明らかに、時計で培われた精密技術を発展させていった技術ベースの応用による関連型多角化であろうことが推察される。その他の事業も同様に関連多角化のように見える。

現行の体制は、これらの事業群をグループとして、その下に子会社を連ねる形になっている。グループはシチズン時計(株)の中にある形になっている。今回の発表では、この体制をそれぞれのグループを独立させ、持株会社性へと移行するということであろう。
狙いとしては、日経新聞記事によればM&Aをより行いやすくする、時計事業への依存からの脱却を明確化するということが理由として挙げられている。持株会社にすると、M&Aをより行いやすくなるのは、会社を横に継ぎ足していけるからだ、という意味では分かるのだが、設備投資の大きい製造業という性質を考えると、今ひとつ分かるようで分からないというのが本音だ。税務上や会計上の意義があるのだとしたら、専門外なのでなんとも言えないが、別に現行のグループ体制でも戦略や組織運営上はM&Aを行うことは不可能ではないはずだ。それ故に「より行いやすくする」という表現になっているのだとしたら、極めて曖昧な内容だといわざるを得ない。
もし仮に先に述べたような理由でM&Aを行いやすくするのが明確な狙いだとしたら、非関連多角化を推進していくということなのだろうか?つまり、旧来の技術ベースの応用を中心にした関連型多角化ではなく、関連の薄い事業を買ってきて、それを立て直すという形で成長戦略を考えていく、ということなのだろうか?そうだとしたら、果たしてそういった成長戦略が有効なのかどうか、微妙なところだろう。今までの買収の流れからすると恐らくそうでないだろうが、ならば、持株会社に敢えてこだわる理由はどこにあるのだろうか?
もっと調べる必要があると感じている。シチズンの発表によれば、それほどまだ具体的には決まっていない模様だが、関連する情報をより多く集めていきたいと思っている。

Wednesday, August 09, 2006

相次ぐTOBに関する報道について(王子製紙と北越製紙&AOKIとフタタ)

少し前になるが、王子製紙が北越製紙に敵対的買収をしかけることが報道された。
この一件に関する一連の報道には大いに不満が残る。
というのは、一体、なぜ王子製紙が北越製紙に買収をしかけているのか、その買収の合理性はどこにあるのか、全くわからないからだ。
大まかに知っている情報と言えば、北越製紙は製紙業界でもそれほど大きな方ではなく、コート紙で成功している企業である、ということくらいである。その情報が得られた唯一の記事がこれ。最後の方にやっと一言出てくる。

FujiSankei Business i. 総合/北越製紙増資で三菱商事 「ホワイトナイト」否定(2006/7/29)

報道に求めたいのは、「誰が何をやった」だの「どっちの方が優勢だ」だのということを繰り返し伝えるのではなく、分析的な内容である。
今の報道だと、そもそも王子製紙が何のために北越製紙を買収しようとしているのか、今ひとつよく分からないままである。「業界の再編」が狙いだ、などとおおざっぱなことを言うが、再編の意味すら十分に伝わってこない。
再編とは、規模を大きくして、調達や生産コストを下げることをねらっていると言うことを意味しているのだろうか?であれば、もう少し規模の大きな他社との合併への動きでも良かったはずである。それにもかかわらず、敢えてニッチ企業を買収しようとする王子製紙の買収意図は、むしろ、昨今の原材料費の高騰を差別化された製品を積極的に開発、獲得することによって、収益率の低下を避けるための差別化戦略の一環なのではないか?
仮にそうだとしたら、王子製紙の商品構成の中で、差別化戦略に適合的な商品は何か、また、そうした体制はどの程度整備されているのか、北越製紙はどうなのか、そもそも王子製紙が抱いている危機感とは何なのか、危機感に対する有効な戦略は何が考え得るか、等々、色々と見るべきポイントがあるはずだ。
なぜこういった点に、殆ど言及されないのか、敢えてやっていないのだとしたら意図が分からないし、意図的でないとしたら能力が足りないのだろうか。

AOKIによるフタタへのTOBに関しては、日経新聞8月9日付け朝刊に比較的よい情報が掲載されていた。(記事名「紳士服、中堅が再編の焦点」)
同記事によると、衣料品業界では売上が一千億円を突破すると、スケールメリットが生じるため、供給業者への価格交渉力が増すとのこと。
アパレル業界とはいえ、プレミアム価格を行使できるブランドではないこれらの企業にとって、調達コストを低く抑えることは、現行の戦略の延長線上で考えれば合理的だ。青山が圧倒的に規模が大きいため、この情報が正しいとすれば、AOKIの買収提案は合理的であると考えられる。
同記事内では、中京地区のトリイや東北地区のゼビオをAOKIが買収しているとの情報も掲載されていたが、それらの企業がAOKIに買収されたことによって、同地区の売上と収益がなぜ、どのように向上したのか、調べてみる意義もあるだろう。なぜならば、ここにフタタ買収の意義が隠されているはずだからだ。

残された疑問点は、なぜ報道される情報が、この二つの買収事例でここまで異なっているのかということだろうか。

Sunday, August 06, 2006

地場産業のブランド化

もう一つブランドの話。
地場産業の停滞は、日本の地方経済の活性化にとって重大な問題点の1つだが、福岡県久山町で明太子のブランド構築に成功したくばら醤油の「椒房庵」の事例を紹介した記事がこれだ。

感謝の心配りと伝統、地場3本の矢で後発の不利を覆す (特別編集版 ブランド進化論):NBonline(日経ビジネス オンライン)

この事例は、赤字続きだった事業を立て直すべく、商品を高品質化し、それに見合ったプロモーション(本店の建設)を行ったこと、などが挙げられている。

この記事から学べる重要なポイントは、
○自分たちの提供している製品・サービスの価値を再定義することの重要性
○結果とのギャップを分析し、的確な手段を講じることの重要性
であろう。

売り出し当初は「くばら醤油」という名前が無名であったため、消費者から警戒心を抱かれたが、その警戒をなくすために、積極的に商品のクオリティを上げたことが功を奏したそうだ。また、顧客へのもてなしも徹底させている。
地場産業の商品は、文化性やこだわりといった点で、 一般の商品よりも有利な立場にあるはずだ。しかし、それを顧客にどのようなものとして価値を作り出していくのか、この点が課題だろう。
特に、中国からの安い製品の輸入によって打撃を受けているような地場産業は、安易な価格競争に巻き込まれることなく、ブランドによる独自の地位を構築することに力を注ぐべきである。是非一度この社長さんのお話を伺ってみたいと思っている。

ブランド活用の難しさ(KDDIの「Business au!」の成功とカシオ「エクシリムプロ」の失敗の事例)

KDDIは、携帯電話ブランドの「au」は、若年層を中心とした顧客層を有しているため、企業向けのブランドとしては「au」を使ってこなかった。しかし、顧客にはそれがビジネスラインに対しては本気でないととられていて、今ひとつ企業向けサービスの伸びが悪かった。そのために、「Business au!」というブランドを立ち上げたところ、近年企業向けサービスが伸びているとのこと。
強いブランドの余勢を駆れ企業向け携帯も「au」で攻める (特別編集版 ブランド進化論):NBonline(日経ビジネス オンライン)

一方で、今週号(2006年8月7日-14日合併号)の日経ビジネスの特集「なぜ売れない-高まる新製品リスク-」という記事の中では、カシオのデジタルカメラ「EXILIM」が「エクシリムプロ」という一眼レフに負けない性能を持つカメラ製品群ブランドを作ったところ、まるで売れず、「EXILIM」を元の薄型カメラ中心の製品展開に戻した、という記事があった。
同記事によると、カシオは当初「EXILIM」の意味として「並はずれた」+「スリム」という二つの言葉を組み合わせたものとして売り出していた。しかし、カメラの高性能化を計った結果、初期製品(S1)よりも次期製品(Z3)は二倍近い厚みになったという。このときに「薄型でコンパクト、スタイリッシュ」にブランドの定義を変更していった。その上で登場したのが、「エクシリムプロ」で、性能は確かに優れているが、大型、いかにもメカというデザインの製品だった。

この対照的なニュースから、私たちは何を学べるだろうか?
1つは、ブランド価値の中身を顧客の視点から定義し続けることの重要性だと言える。一番怖いのは、日本の製造業にありがちな技術に引っ張られすぎて、顧客志向を失うことである。
ここからは推測に過ぎないが、カシオも勿論顧客調査をした上で商品開発はしているのだろう。しかし、調査結果を社内でどのようなものとして活用したのか、という点とは次元が異なる問題である。つまり、調査結果の解釈を過度に技術(スペック)寄りに解釈しては危険だということだ。
また、調査対象をどのような人々をターゲットにしたのか、例えば、エクシリムの薄型「技術」に惹かれた人にしたのか、それとも、スタイリッシュさに惹かれた人にしたのかという点も問題になるだろう。
2つめとしては、ブランドにはわかりやすさが重要だということだろう。
ブランドのイメージするものと、実際の製品・サービスが食い違っていると、「なんだかよくわからない」と顧客に認知されてしまうことになる。
組織論研究者のワイクは「センスメーキング」という言葉で、意味を作り出すこと、もっと簡単に言えば「腑に落ちる」ことの重要性を説いている。つまり、ブランドが伝えるメッセージと製品・サービスとが矛盾しないことは、極めて重要だと言える。
エクシリムの事例から見ると、当初ブランドのメッセージは、製品開発の過程であまりに拡大解釈されすぎたきらいがある。競合の模倣による追い上げも激しかったかも知れないが、もう少し「EXILIM」のブランドを信じて、じっくり育てても良かったのかも知れない。逆に、auの事例からは、ブランドが狭く解釈され過ぎて上手く活用がされていなかった。ここは難しいポイントだろうが、ブランドを狭く捉えすぎて活用しないのではなく、ブランドのメッセージを上手く活用できるような商品・サービス開発が必要だと言うことであろう。